(マタイ25:31-46)
王であるキリストの祝日は1925年教皇ピオ11世によって制定されましたが、これは当時の世界情勢にたいする教会の応答でした。その当時世界は混迷に陥っていました。1914年第1次世界大戦、1917年ロシア革命とそれに続くソヴィエト連邦の樹立、更にヒトラーのナチズム、ムッソリーニのファシズム、スターリンの全体主義、更にはアメリカの物質主義の中でカトリック教会も混乱の渦に巻き込まれつつありました。このような複雑で混乱した教会の中で幼きイエスの聖テレジアが列聖されました。彼女は1925年5月17日教皇ピオ11世によって列聖されましたが、彼女の生き方は当時の教会の流れに逆行するものでした。当時の複雑で混乱した世界情勢のなかで、教会も何かしなければならないと躍起になっていた時、テレジアが示した生き方は「すべてをなさるのは神である」というものであった。彼女は単純な信仰に生きました。「神を信じよ」「神の愛を信じよ」「神の慈しみに信頼せよ」この単純な信仰に鼓舞されて多くの宣教師、特にフランスからの宣教師が日本の土を踏んだのでした。
現在の世界情勢は100年前とよく似ていると言われています。確かに世界の大衆迎合主義(ポピュリズム)の中で多くの独裁的政治家が台頭し世界は混乱状態にあります。100年前スペイン風邪で約5000万人が亡くなったと言われますが、現在は新型コロナウイルスが世界を脅かしています。このような世界情勢の中でカトリック教会も不安と混乱の試練に直面しています。しかし今から100年前の混乱した世界情勢の中で神が幼きイエスの聖テレジアを世に示したように、今年神は現代の新しい信仰の証人として福者カルロ・アクティスを世に示しました。
カルロはごく普通の快活な子どもで、サッカーをしたり、サックスを演奏したり、ゲームを楽しんでいました。しかし彼はそれにとどまらず、子どもでありながら、初聖体や堅信クラスの子どもに要理教育をし、フランシスコ会やマザーテレサの会のボランティア活動に参加し、宿題などで困っている子どもたちを助けましたが、それは彼とイエスとの大いなる愛に支えられていたからです。「私ではなく神」これはカルロが初聖体を受けた時からの彼の信念です。
彼はまたコンピューターやネットに関して特別な才能があってそれを独学で学び、それを通してご聖体の尊さを人々に知らせるために、ご聖体の奇跡の情報を集めては各巡礼地で展示会を催し、また聖母マリアへの信心に熱心であった彼は毎日ロザリオを唱えていました。彼は2006年15歳の時白血病で亡くなりましたが教皇はカルロ・アクティスを現代の新しい信仰の証人として今年10月10日イタリアのアシジで福者の列に加えられました。
この複雑で混乱した世界にあってカトリック教会は決してそれに迎合してはなりません。混乱した世界だからこそ単純で堅固な信仰に生きなければなりません。教会を複雑なものにしようとする誘惑は後を絶ちません。かつて幼きイエスの聖テレジアを通して響いた声が今も静かに響いています。「神を信じよ」「神の愛を信じよ」「神を畏れよ」
皆さん、今こそ確信をもって単純な信仰に生きましょう。
(赤波江 豊 神父)