12月4日待降節第2主日
赤波江神父の黙想のヒント

「エッサイの株からひとつの芽が萌えいで その根からひとつの若枝が育ち その上に主の霊がとどまる。」(イザヤ11:1~2)

 3年前の今日12月4日、アフガニスタンで中村哲医師がイスラム原理主義者の凶弾に倒れました。アフガニスタンは、今なお茨の道です。この国を根底から揺るがしたのは、内戦や外国からの干渉ばかりではありません。最も大きな原因は、地球温暖化によって2000年以来激化した大干ばつです。アフガニスタンは、かつては完全な食料自給を果たし、なおかつ豊かな農産物を輸出して富を得ていました。それが農地の急激な砂漠化で多くの人が村を去り、食料自給率も半減したのでした。中村医師は、この国で医療活動に従事していましたが、彼が働く診療所の地方も大変な干ばつに襲われ、不毛の砂漠と化してしまいました。住民たちは一斉に村を去り、栄養失調と脱水で倒れる子どもが急増し、赤痢で死亡する人が後を絶ちませんでした。飢えや渇きを薬で治すことはできません。それは医療以前の問題だったのです。飢えは食料でしか癒せません。食料生産のためには農業用水を必要とします。彼は、「100の診療所より、1本の用水路を」と唱え、自身は医師で土木技術はなかったのに、独学で土木を学び、7年間現場に張りついて指揮をとり、ついに2009年2月ガンベリ砂漠を横断する全長25キロのマルワリード用水路が完成し、あの不毛と化した砂漠を緑の大地に変えたのでした。彼はその後も砂嵐や洪水と戦いながら砂漠開拓を進めていましたが、2019年12月4日、「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」(ヨハネ12:24)ことを証しするように亡くなりました。その生き方には多くの人が心打たたれ、日本の教科書でも取り上げられました。

 冒頭の「エッサイの株」とは、一度断絶したダビデ王朝のことで、エッサイはダビデの父親です。株は一度切り倒された木の名残で、一見死んだかのように見えますが、生命力の強い木は切り倒されても、その切株から芽を出させます。同じように、一度断絶して死んだかのように見えたダビデ王朝の末裔から、新しい救い主が生まれることを意味しています。中村医師も一度凶弾に倒れ、木のように切り倒されましたが、その魂は絶えることなく、彼の株から多くの希望の芽が出ているのを感じます。中村医師はプロテスタントの信徒でした。

 彼は他の川から用水路を引くことによって、砂漠を緑の大地に変えました。私たちも心の流れを変えましょう。憎しみや愛のエネルギーは同じ心の底から放出されます。大事なことは悪の経路を愛の経路に変えていくことです。神が私たちの心の水源池の流れをちょっと変えてくれるだけで、悪い流れは良い流れに変わるのです。そうして不毛な心を緑豊かな心に変えていきましょう。この待降節の間、神が私たちの心の水源池の流れを変えてくださるよう祈るとともに、中村医師が私たちの心の水路作りに天国から協力してくださるよう祈りましょう。

      (赤波江 豊 神父)

今日の福音朗読

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