8月27日年間第21主日
黙想のヒント

「シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ」(マタイ16:17)

 イエスは、信仰宣言をしたペトロを「あなたは幸いだ」と祝福します。それはペトロが信仰宣言をしたのは彼の力ではなく、天の御父の恵みだからです。今日私たち一人一人にも同じようにイエスは「あなたは幸いだ」と祝福しています。それは与えられた命と人生が、一人一人全くユニークであり、この世界で誰も取って代わることのできないものだからです。

 坂本龍馬は「世に生を得るは事を成すにあり」という言葉を残しています。つまり、人が生まれてくるのは何事かを成し遂げるためであると彼は言うのです。下半身不随に加え、不整脈、高血圧などの障がいがありながら、パラリンピックで通算15個の金メダルを取った成田真由美さんはある講演会で、「私は障がいと病気を与えてもらったから、本当にいろいろなことに感謝できる人間になれた。人間は目標をもつと絶対にがんばれるし、不思議なくらいパワーが出ることを自分自身の体で感じることができた。私は失ったものを数える人間より、得たものを数えられる人間になりたい。」と話していました。

 神の業と称えられる全盲のピアニスト辻井伸行さんは生後半年くらいのとき、母親がショパンの「英雄ポロネーズ」を聴かせると手足をバタバタさせて喜びを表現するので、全盲の息子に何とか一条の光を与えたいとの一心で、それ以来毎日クラシック音楽を聴かせていたのでした。ところが、まだおむつが取れない2歳3か月のクリスマスの日、何とこの子はプレゼントにもらったおもちゃのピアノで突然演奏を始め、両親を驚愕させたのでした。彼は幼少時からピアノと会話し、ピアノさんといると少しも辛くないと語っていました。彼の姿は、人間は志した道を楽しむために生まれてきたことを教えているように思えます。あの偉大な音楽家モーツアルトは常々自分は作曲家ではないと公言し、「音楽が自分の所へやってくるのだ、自分はそれを楽譜に書き写しているに過ぎない。」と語っていました。成田真由美さんにしても、辻井伸行さんにしても、障がいと言われる体の不自由さの中に自分なりの特権を見出し、その内なる声に耳を傾け、そこから素晴らしい才能を開花させたのでした。

 人にはそれぞれ使命があり、障がいの有無に関係なく、人として生まれた以上何かを成し遂げたいという思いは多くの人の心にあります。その私たち一人一人に、「あなたは幸いだ」と宣言したイエスは、人間には思いを実現する無限の才能があるのだ。人間は決して弱い存在ではない。人間は、本当は偉大で強いのだと伝えているのです。前述の坂本龍馬の言葉を補足するなら、事を成すために必要なのはまず「行動する」ことです。やる気が起きてから行動するのではなく、まず行動することが大事で、その行動の副産物としてやる気も湧いてくるのです。人間は感情によって行動するというより、行動に感情がついてくることが多いのです。

      (寄稿 赤波江 豊 神父)

今日の福音朗読

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