10月15日年間第28主日
黙想のヒント

「皆さん、私は貧しく暮らすすべも、豊かに暮らすすべも知っています。満腹していても、空腹であっても、物が有り余っていても不足していても、いついかなる場合にも対処する秘訣を授かっています。」(フィリピ4:12)

 古代ギリシャの哲学者エピクテトスは「足りないものを嘆くのではなく、今あるものを大いに喜ぶ、それが真の賢者である」と言ってパウロの言葉を補足しています。実際、多くの人は望んでいるものを既に持っていることに気づいていないのです。例えば富、自由、愛、人との絆などがそうで、その理由を自分は恵まれていない、運が悪い、親のせいだ、はたまた運勢が悪いなどと挙げます。このような欠乏意識はどこから生まれるかというと、決して運が悪いのでもなく、親のせいでもなく、感謝しない自分にあるのです。ですから意識を「持っていないもの」から「今持っているもの」に切り替える必要があります。

 欠乏意識はものごとを小さく考えて悲観主義に陥りやすく、変化を恐れ保守的になって成長を阻む結果となります。反対に今持っているものに目を向け、それに感謝するならば、全てを持っていなくても、十分に持っていることに気づきます。そのような今十分持っているという感謝の心は人に心を開いて寛容の精神と、喜びや希望などのポジティブな精神を育てます。大事なことは、私たちがいつも思っていることは、私たちの現実となるということです。ですから普段の恩恵に気づかず不平不満で生きていると、マイナスな要素ばかり呼び込んでしまうことになるのです。しかし今持っているものを喜んで、いつもそれに感謝していると幸福感を引き寄せ、挫折やストレスから立ち直り、人との絆を強めます。今の私たちの状態はすべて自分が呼び込んだものであり、呼ばなかったものは来ないのです。

 このことは心情的に語っているだけではなく、科学的にも立証されているのです。脳にはドーパミンとセロトニンという二つの神経伝達物質があります。ドーパミンは気分を改善し、幸福感を高め、情熱や心の安定をもたらします。セロトニンは気分を盛り上げる働きがあります。そのドーパミンとセロトニンの分泌をもたらす最も大きな要素が感謝の心なのです。いつも感謝の心を持つ人はストレスを受けにくいという報告もあります。

 しかし感謝の心を持つ人は決して失敗や挫折に直面しないというのではなく、感謝を習慣にしていると、何か失敗しても脳の神経回路が「自動モード」となって働き、無意識のうちに「こうすればきっと良くなる」というように、ポジティブにものごとを捉えることができるのです。これが、パウロが言う「いついかなる場合にも対処する秘訣」なのです。

 「この世界には美しい山や渓谷、静かな湖がたくさんある。草木が生い茂る森林、野花が咲き乱れる平原、白砂の覆われた海岸も世界中に点在する。毎日朝日が昇り、夕日が沈み、夜空には満天の星が輝く。しかしこの世に最も必要なのは、それを見て楽しみ、感謝をささげる人たちだ。」(アメリカの詩人マイケル・ジョセフソン)

      (寄稿 赤波江 豊 神父)

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