10月29日年間第30主日
黙想のヒント

「あなたの神である主を愛しなさい。隣人を自分のように愛しなさい。」
  (マタイ22:37-39)

 現代、愛という言葉は安易に使われすぎており、多くの人が愛について語るとき、それは性的な事柄を含んでいます。従って多くの歌手が愛について歌っても、実生活で愛という言葉を使うことはあまりありません。しかし愛という言葉の重みがなく安っぽく使われたとしても、実際人は心の中に愛への憧れをもっています。人は無条件に愛されることを願っており、愛する人から愛されたとき人の顔は喜びに輝きます。愛は生命力を失った人を生き返らせる力をもっています。実は愛と美は深く結びついていなければならないのです。

 イタリアのフィレンツェにあるサンマルコ修道院(サンマルコ美術館)を訪れたときのことです。そこには聖母マリアの受胎告知をなど中世の画家フラ・アンジェリコ(Fra’ Angelico 1390頃-1455)の絵画が多く収蔵してあります。何気なしに彼の絵を見ていたとき、私は「何か」に強く深く吸い込まれるようなものを感じました。フラ・アンジェリコの絵は今まで写真で何度も見たことがありますが、いくら写真が精巧であったとしても、実物でなければ決して感じられない「何か」でした。その「何か」というのは「この画家は深い信仰をもって描いている」という確信でした。彼の全ての絵画はそう感じさせる力をもっているのです。その力とは彼の心にある神と人への愛の溢れであり、彼の絵画は彼の全存在からにじみ出た人間の心の奥底にある憧れを表現しているのです。愛とはこの心の奥底にある憧れを通して周囲の人を、そして自分自身を新しい光で見ることです。ですから何でも本物に触れることが大切です。人との出会いもそうで、オンラインやネットではなく、直接人に出会わなければ人間の価値と美しさに触れることはできないのです。ちなみにフラ・アンジェリコのフラは修道士を意味するFraterの略で、彼は存命中からその敬虔さの故に福者を意味するベアト・アンジェリコ(Beato Angelico)とも呼ばれていました。彼は1982年に教皇ヨハネ・パウロ二世によって列福され、名実共に福者となりました。また1984年には同教皇によって「キリスト教芸術家の守護者」として認定されました。

 「アンジェリコは『キリストに関する絵画を描くのであれば、常にキリストと共に過ごさなければならない』と何度も語りました。この考えが『福者アンジェリコ』という称号を彼にもたらしたのです。アンジェリコの生涯はこの上なく高潔で、その絵画は神聖な美しさにあふれています。特に、聖母マリアを描いた作品は最上級のもので、人々に大きな影響を与えています。」(教皇ヨハネ・パウロ二世)

 フラ・アンジェリコに限らず、全ての芸術家について言えることですが、愛と美は深く結びついていなければならないのです。愛と美を切り離して考えたとき、芸術はその真の輝きを失います。真の美しさは愛に裏打ちされており、愛は自ずと美しさをにじみ出させます。ある彫刻家がこう断言しました。「どんな芸術であれ、隣人へのいたわりや愛のない人間が創ったものは全て偽りと言ってよい。」この言葉は真実です。

      (寄稿 赤波江 豊 神父)

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