11月5日年間第31主日
黙想のヒント

「誰でも高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる」(マタイ23:12)

 人生は竹のようなものです。竹は節があるから強いのです。同じように、人生は節目、節目で強められますが、その人生の節目にはその人にとって大切なものが失われると言われます。たとえば、偉大な音楽家ベートーベンは人生これからという時に聴力を失いました。しかし、その後の1804年から1814年が彼の黄金期で、その間「運命」や「田園」などの代表作の大半は、この聴力を失うという試練の時期に作曲されたのです。ベートーベンに限らず、多くの人は人生の節目で、愛する人の死、大きな事故、挫折を経験しそのことによって強められ、人生の意味と深みを理解しました。

 このような試練から立ち直ることが早い人は、自分の限界をよく理解しています。だからこそ自分一人ですべてを解決しようとせず、周囲の助けを謙虚に求めそれに感謝します。自分一人で決意し努力することは立派なことですが、本当に人間として成長するためには、更に人の助けをいただき、それに感謝することが必要なのです。

 今日の福音書が言う「へりくだる者」とは決して自分を卑下したり、否定することではなく、自分一人では全てができないからこそ、多くの人の助けを謙虚に願い、更に感謝することです。心理学の研究でも感謝の思いが豊かになるとストレスへの耐久力がつくと言われています。実は人間の疲労、病気の原因の多くはストレスなのです。しかし感謝の思いを常に持ち続けることでストレスそのものの発症を抑えることができます。また感謝は人間関係の潤滑油で、そのことで多くの出会いにも恵まれ、人間の輪が広がり、結果的に自分の心が「高められる」ことになるのです。反対に感謝の思いの少ない人ほど、人との出会いも少なく、ストレスの多い生活をしているように見受けられます。

 感謝はストレスを抑えますが、このことは人間の非常に大切な営みである睡眠に大きく関係します。かつて日本の政財界からスポーツ界まで幅広く影響を与えた中村天風という思想家がいますが、彼は睡眠について、寝床の中は肉体と精神の疲れを休める場であるだけではなく、もっと深い目的の「生命の立て直しの場」である。だから寝床の中は非常に神聖な場であるから、寝る時はどんなことがあろうとも、決してマイナス感情を持ち込まないことが大切であると述べています。だから寝る時は悲しいこと、腹が立つこと、不安なことなど否定的な感情は決して持ち込まず、積極的なこと、明るいこと、感謝したいことを連想するようにと述べています。

 私もこの方法を学んでから、夜床に就く時には必ず神に感謝すべきことを正しい言葉で繰り返し、そして朝目覚めた時には、確かに良き睡眠が与えられたことを実感しています。

      (寄稿 赤波江 豊 神父)

今日の福音朗読

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