3月2日 年間第8主日
黙想のヒント

「人の口は、心からあふれ出ることを語るのである」(ルカ6:45)

 私たちは言葉で心の思いを表してお互いコミュニケーションを取り、言葉で多くのことを学び、言葉で仕事のスキルを上げて生活の向上を願っています。しかし言葉はあまりにも普通に使われるので、その力に気づかないことが多いのです。その力とは、私たちの普段の言葉が運命を決定するということです。どんな言葉とともに歩むかで、私たちの人生は決定されていくのです。決して能力の有無、社会的地位や遺伝ではないのです。

 「心の思いは話を聞けばわかる。言葉こそ人を判断する試金石であるからだ」(シラ書27:6~7)。日本でも古来言葉には不思議な力が宿ると信じられてきました。それを言霊(ことだま)と呼び、言葉にはその人が発した通りの結果を実現する力があるとされてきました。人は誰でも自分が発する言葉通りの人生を送っているのです。「善い人は良いものを入れた心の倉から良いものを出し、悪い人は悪いものを入れた心の倉から悪いものを出す」(ルカ6:45)。即ち、心が良い状態であれば、良い言葉となって表れて善い人格を形成し、心が悪い状態であれば、悪い言葉となって表れ、そのように人格を形成するのです。ですから、私たちを動かす司令塔である心のあり方を正しい方向にセットしましょう。

 言葉は自分に対する一種の自己暗示です。特に人に向けて語る言葉は、同時に無条件で自分の脳に入ってきます。自分の言葉を一番聞いているのは、他ならぬ自分自身の耳だからです。実は、脳は主語を認識しないのです。誰かに対して「あなたは最低だ、狂っている」と言えば、脳は自動的に「私は最低で狂っている」と処理し、誰かに「あなたは善良で立派だ」と言えば、脳は自動的に「私は善良で立派だ」と処理するのです。ですから人に与えた言葉は全て自分に返って、徐々に自分自身の運命を設計し続けているのです。人であれ物であれ、人の心は自分が欲しいものや、興味があるものに目が向くようになっています。つまり、今見ているものはその人が必要としているものなのです。悪口を言う人は無意識で悪口を言いたくなる原因を探し、感謝する人は無意識で感謝したくなる原因を探しながら、それぞれの運命を築いているのです。

 神の言葉というとまず聖書です。しかし、実は聖書だけが神の言葉ではないのです。感謝の言葉、美しい言葉、人を生かす言葉の内に神は宿ります。ですからこのような言葉も神の言葉です。反対に汚い言葉、人を傷つける言葉、呪いの言葉の内に悪魔は宿ります。ですからこのような言葉は悪魔の言葉です。幸せになりたいのなら、いつも感謝の言葉、美しい言葉、人を生かす言葉を使って「口元をきれいに」しておきましょう。

      (寄稿 赤波江 豊 神父)

今日の福音朗読

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