6月22日キリストの聖体
黙想のヒント

「あなたがたが彼らに食べ物を与えなさい」(ルカ9:13)

 五千人の人に対して、五つのパンと二匹の魚というのはほとんど無に等しい数です。しかし無に等しいように見えても、イエスは弟子たちの協力を求めます。どれほど僅かでも、人間の協力がなければ神はみ業を完成することはできないからです。

 現在の世界情勢は100年前のそれとよく似ていると言われています。歴史的に見て、一般民衆は自分で考えず、その時々に合わせて政治家に全てを任せるという傾向がありました。そして資本主義の流れに遅れ、戦争で疲弊し、また膨大な失業者などで政治経済が混乱する中で一般民衆に不安が広がった国からは、それを一新して国家を力強く引っ張るカリスマ的指導者を待望する現象が起こりました。ナチスドイツもソ連もこのような状況下で生まれたのでした。こうして自ら考えず、熱烈に支持する政治家の言うことに無批判に従う大衆によって構成される国家の構図ができあがりました。しかし、このような歴史を繰り返さず、全体主義に抵抗するためには、国民一人一人が自分で考えて自発的に発言し、公の場で語り合うというのが政治の本来の姿なのです。

 「歴史の中に未来の秘密がある。我々は、我々の歴史の中に、我々の未来の秘密が横たわっているということを本能的に知る。変化こそ唯一の永遠である」(岡倉天心)つまり過去の歴史の中に未来を探るヒントがあります。変化し続けている今を生きよ、そこに永遠がある。これは不安な未来に直面した私たちにとって知恵が凝縮された言葉です。

 ケネディ大統領は就任演説で「アメリカの国民諸君、国家が諸君のために何をなしうるかを問うのではなく、諸君が国家のために何をなしうるかを考えよ。世界の同胞諸君、アメリカが諸君のために何をなしうるかを問うのではなく、我々がともに人類の自由のために何をなしうるかを考えよ」と力強く宣言しました。

 マザーテレサがある孤独な老人を訪問したときの話です。彼女は埃だらけの部屋にきれいなランプがあるのを見つけました。「どうしてこのランプをつけないのですか?」「誰も会いに来てくれないのでつける必要はないよ」「シスターたちが訪ねてきたらつけますか?」「人の声が聞こえたらつけるよ」その後、マザーテレサのもとに伝言がありました。「あなたがつけてくれたランプは今でも燃え続けています」だからマザーテレサは「ランプの灯をともし続けるには、絶えず油を注がなければなりません」と言いました。

 今の世の中悪い事ばかりに見えても、それでも社会が動いているのは、無数の善意な人たちが無償で働いているからです。昔「暗いと不平を言うよりも、すすんで灯りをつけましょう」という標語を街中でよく見かけました。これは永遠に妥当するメッセージです。今「愛国心」という言葉が世界中で誤用されています。しかし次の言葉は真実です。「みんなが、みんなのために働く、それが本当の愛国心です」(ヘレン・ケラー)

だから「あなたがたが彼らに食べ物を与えなさい」 

      (寄稿 赤波江 豊 神父)

今日の福音朗読

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