8月10日年間第19主日
黙想のヒント

「あなたがたも用意していなさい」(ルカ12:40)

 「コロンブスの卵」という故事が西欧にあります。困難な航海の末にアメリカ新大陸を発見したクリストファー・コロンブスは、スペインに帰国後熱烈な歓迎を受け、その姿はまるで凱旋将軍のようでした。しかしいつの時代でも功労者に対して嫉妬する人もいるもので、ある歓迎会でコロンブスの姿を見て一人の男が、「新大陸の発見と言っても、ただ船を西へ西へと走らせただけではないのか」と皮肉ったところ彼は、「確かにそのとおりです。しかし私は船を西へ西へと走らせて行けば、きっと大陸に行きつくはずだと誰よりも先に思いついただけなのです」と答え、「さてここに卵があります。この卵を立てられる人がいたら今ここで立てていただきたい」と提案しました。コロンブスを皮肉った男を始め、その場に居合わせた人たちが挑戦するが、誰一人卵を立てられない。そこで彼は「決して難しいことではありませんよ」と言って、卵の先を軽くたたいてへこませると確かに卵は立ちました。それを見ていた人たちが「何だ、そんなこと誰でもできるじゃないか」と笑うと、「そうです、卵を立てるのは誰でもできます。しかし皆さんは誰一人この方法に気づかなかった。新大陸の発見も同じです。最初に思いつくのが大事なのです。人が成し遂げた後に、「何だ、こんなことか」と批判するのは誰でもできます」そう言って彼は新大陸発見を皮肉った人たちを見つめていました。

 同じように神が私たちに要求することも非常に単純なことで、一見して「何だ、こんなことか」と思うようなことばかりなのです。今年はリジューのテレジア列聖100年にあたります。彼女は24歳で亡くなるまで、カルメル会の修道院で生活しました。彼女がしたことは洗濯、掃除、炊事など院長から命じられた仕事だけでした。しかし彼女はそれらの奉仕の一つ一つに愛をこめることで天国の頂に達しました。彼女は単純な奉仕に最大の愛を込めるという「テレジア流コロンブスの卵」の発想で大聖人となったのです。

 最初小さな町工場だった京セラを世界的な大企業に育て上げた稲盛和夫は、また熱心な仏教徒でした。彼は人から経営の秘訣を聞かれるといつも「感謝の心を忘れるな、嘘をつくな、人に迷惑をかけるな、正直であれ、私利私欲に走らず人のことを考えよ」と答えたそうです。しかし聞く人は皆一様に「そんな単純なことで経営が成り立つのか。そんなことは子どもの頃から親や先生から聞いてきた」とけげんそうな顔をするのです。しかしこの誰でも知っているはずの「単純な原理原則」が実践されていないから、一時的に業績をあげても、破綻する会社が多いのだと稲盛和夫は自分の信念を貫きました。

 「あなたがたも用意していなさい」イエスが私たちに求めることは、日々の単純な生活を「信仰によって」(ヘブライ書参照)献げる「単純さの聖化」なのです。今年大リーグの野球殿堂入りしたイチローは「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行く唯一の道だ」と言っています。信仰生活もこれと同じです。 

      (寄稿 赤波江 豊 神父)

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