11月9日 ラテラノ教会の献堂
黙想のヒント(第277話)

「あなたがたは、自分が神の神殿であり、神の霊が自分たちの内に住んでいることを知らないのですか」(1コリント3:16)

 昔アメリカであった話です。エディが妹のアグネスと道路わきを歩いていたところ、突然暴走してきたトラックにアグネスがはねられ重傷を負ってしまいました。直ちにアグネスはエディとともに救急車で病院に運ばれました。救急隊員は親のことを尋ねますが、父親は家を出て行ってしまい、今どこにいるのか分からない。母親は働いているが携帯電話もなかった時代です、エディは場所も連絡先も知らない。

 病院に到着して間もなく看護師が、「エディ、あなたの血をアグネスに分けてあげてくれない?」と言ったところ、その言葉にエディは急に顔が青ざめ、体が小刻みに震えだすのです。看護師が「何をぐずぐずしているの。あなたが血を分けてあげなかったら、アグネスは助からないのよ」と少し声を荒げるのです。その言葉にエディは黙ってうなずき、看護師とともに手術室に向かうエレベーターに乗りました。

 手術は無事に終わり、幸いアグネスは一命をとりとめることができました。手術後、ソファーの片隅に一人黙って座っていたエディが医師に、「先生、ボクはいつ死ぬんですか」と尋ねるのです。医師が「君、人に血をあげたって死にやしないよ」と笑って答え、側にいた看護師も同様に笑っていました。エディは、「ああそうですか。ボクは人に血をあげたら死ぬんだと思っていました」と静かに言いました。

 その時、医師も看護師もエディがアグネスの手術前、顔を青ざめて小刻みに震えていたことの意味が分かったのでした。看護師も急いでいたせいか、手術前に輸血の意味をちゃんと説明できなかったこともありましたが、エディはただ一人の妹アグネスのために死ぬつもりで手術室に向かったのでした。あのエレベーターは、エディにとって処刑台へのエレベーターだったのでした。

 妹のために命をささげようとしたこの少年の崇高な思いに、医師も看護師も言葉を失い、この少年の姿をした神殿を礼拝するかのように、二人は黙ってエディを見つめていたのでした。

 「あなたがたは、自分が神の神殿であり、神の霊が自分たちの内に住んでいることを知らないのですか」

      (寄稿 赤波江 豊 神父)

今日の福音朗読

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