「忍耐によって、あなたがたは命をかち取りなさい」(ルカ21:19)
イエスは宣教活動が終わってやがて受難を迎え、この世に残していく弟子たちに迫害や苦難を予告しますが、同時に保護と助けも約束します。このイエスの迫害の予告と保護の約束は、人生の旅路を歩む私たちに向けられた言葉でもあります。
ハンス・クリスチャン・アンデルセンというデンマークの童話作家がいます。「人魚姫」「みにくいアヒルの子」「マッチ売りの少女」などの有名な150以上もの童話を残し、世界中の子どもたちに大きな影響を与えました。彼は「私の童話はほとんど私自身の姿であり、登場人物は全て私の人生から生まれたものです」と自身を振り返り、また「全ての人の一生は、神の手によって書かれた童話である」と述べています。
人は物語が好きです。なぜなら人は物語の中に自分の人生を見るからです。特に単純な物語である童話の中には大きなメッセージが含まれています。私たちの人生は一つの物語です。そこには大きな試練、難解な問題がありながらも、人生を振り返ったとき、それらは神が私たちを救いに導くために用意してくれた物語であることに気づきます。そしてその物語には、一人一人神からの大切な人生のメッセージが含まれているのです。
アンデルセンが少年時代、貧しい家の食料の足しにしようと他人の畑に入って落穂拾いをしていたところ、そこの意地悪い地主から鞭で叩かれそうになりました。彼はおとなしい少年でしたが、その地主に対して毅然として「やれるならやってごらんよ。神様は見ておられるのだから」と言ったところ、地主はこんな貧しい子どもを鞭で叩こうとした自分を反省し、却って笑顔になって彼に小遣いさえ与えたのでした。そのような様々な貧しい体験を通して「涙は世界で一番小さな海だ」と述べ、小さな海は大きな海へとつながり、やがて人々は対立していても深海で心がつながる。その深海とは単純な童話なのです。
イエスは弟子たちに様々な苦難を予告した後「しかし、あなたがたの髪の毛の一本も決してなくならない」(21:18)即ち、様々な苦難があっても、それは髪の毛一本を失うほどの損失でもないと約束します。このイエスの約束は私たちにも向けられており、様々な試練に直面しても、人生全てに意味があり、却ってその試練に助けられ、試練と思っていたことは、結局髪の毛一本を失うほどの損失でもなかったことが分かります。自分の欠点に守られ、助けられなかった人は誰もいないのです。
「死を恐れること、それが勇気の源である」(ドイツの作家トーマス・マン)イエス自身死を恐れ、弟子たちも、そして私たちも死を恐れます。それは決して臆病だからではなく、その気持ちが生きる勇気を生み出すのです。トーマス・マンは若い時ヒトラーを批判したため迫害され、転々と亡命生活を送ります。彼と妻は死への恐怖に直面しながら、精一杯生きる中でこの名言を生み出したのです。
「忍耐によって、あなたがたは命をかち取りなさい」
(寄稿 赤波江 豊 神父)